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岳画殺(オリジナル・エピソード)

初版作成:2002/07/18

目次

  1. 前書き
  2. 本編
  3. 後書き或いは感想

前書き

 この二次創作の原作は、アリスソフト発売の18禁エロゲー、「大悪司」です。
 原作のエンディングの一パターンを、登場人物の一人岳画殺を中心にして変更してみました。
 現在プレイ中の方や、今はやっていないが将来プレイしてみようと思っている方達には一部ネタばれの部分もありますので、お勧めできません。
 ちなみに、この二次創作には残酷なシーンが一部含まれています。が、エロシーンは一切含まれていませんのであしからず。
 現在プレイ中だがそれでも構わない方や、そもそもゲーム自体には興味がない方達はそのまま読み進めてください。一応、本二次創作内で登場する主要登場人物の一覧とあらすじを簡便にまとめておいたのでご利用下さい。
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本編

 登場人物紹介
・山本悪司(あくじ):オオサカを取り纏める「悪司組(ゲーム中の選択肢によっては真わかめ組などもあり得る)」の頭。20歳くらいだったかな?
・山本一発(いっぱつ):悪司の祖父。白ひげを生やしてロケットバイクにまたがり「ハイヨー、シルバー!!」と叫ぶ超ナイスガイ。女こましのプロ、しかも現役。
・岳画殺(たけが・さつ):山本一発の娘で13歳(ゲームでは14歳だったかな?間違えたかも)。悪司の叔母にあたる。精神的には非常に大人で、戦闘能力も高い。ニヒルな笑みがぐっとくるファン多し。
 「私の名前は岳画殺、殺すと書いて殺(さつ)と読む。」が決めゼリフ。必殺技の名前は「死ぬが良い」。武器は爆弾やミサイル。この二次創作では母子で勝手な設定を考えてしまいました。
・夕子さん:悪司に女性を教えた。悪司の事実上の母親代わり。のんびり屋。ゲーム中の選択肢によってはオオサカ市の市長になることもあり、この二次創作でもそう。
・シーネル長官:ウィミィ駐屯軍の長官で、イヤな上司としては超超有能。
・プリシラ:かつてジャングルで遭難し、一時悪司とサバイバルをともにする。その過程で悪司に恋をするが、悪司はそのことをさっぱり忘れており。愛しさ余って憎さ百倍になったところをシーネル長官が悪のり。悪司を呼び出しては侮辱的な行為を加える。

 これまでのあらすじ
 男性上位主義ニホンと女性上位主義のウィミィとの太平洋戦争は正和34年にウィミィの勝利で終結。悪司の故郷オオサカはもとより、ニホンはウィミィと女性の統治下におかれる。そんな中、戦地から戻ってきた山本悪司は組を自分の手に取り戻そうと一念発起、ついにオオサカをその手中に収める。
 そこに、かつて戦地でひとときの恋をしたプリシラというウィミィ軍女性兵士がやってくる。悪司と再会するも、悪司は悪司でつきあう女の数が多すぎるためプリシラのことをさっぱり忘れている。激怒したプリシラは愛情一転憎悪に変わり、そこに目を付けたオオサカ駐屯基地の長官であるシーネル長官はたびたび悪司を呼び出しては侮辱行為を与えるようになる。
 屈辱的な注文にも平気の平左で受け答える悪司にシーネル長官はいらだちを募らせ、一方のプリシラは悪司の態度に再び心を揺り動かされつつも・・・。その日、ひときわ屈辱的な命令を受けた悪司、その帰り道に。


 帰り道。
「おい、さっちゃん。いい加減その笑い顔やめてくれや。こえーぜ。」
 悪司が脇を行く殺に声をかける。それでようやく気が付いたのか、いつもの無表情に戻り。
「ああ・・・すまん。まだ怒りが収まっておらなかったのでな。」
 ウィミィからさんざんな辱めを受けた帰り道である。夕子さんはやり残した仕事があるそうなので市役所の方へ別れている。薄暗い街頭の灯る路地を大きな甥と小さな叔母が肩を並べて歩いていた。
「おれはもう怒ってねーって・・・って、怒ってるのはさっちゃんの方か。」
 やれやれ、と言った感じでため息を付いた悪司は暫くしてまた声をかける。
「だから。その笑い顔やめてくれっつーの。」
 口の端をつり上げて。肩をくつくつ言わせながら。しかし目元、頬は全くの冷静沈着な表情で。
 ・・・恐らく。素敵医師やタマネギ達の並み居る廃人狂人部下達でさえ恐れを成すのではないか。
 悪司をしてそう思わさしめるどす黒い塊が、たしかに。岳画殺の笑い顔に澱んでいた。
「・・・すまん。」
 いったんは元に戻るが。暫くすれば、またあの笑い顔を顔面に張り付かせるのであった。四度注意しても直らず、さすがの悪司も空恐ろしくなったころ、事務所の灯りが目に入った。

 その日の夕餉は一際重苦しい雰囲気に包まれていた。悪司に対するシーネル長官の嫌がらせはもはや団員達の許せる範囲を超えており、幹部達は各々怒りをたぎらせて持ち場へ戻っていった。そして身内だけでの遅い夕餉を囲むが。そこでも殺の薄笑いが場の温度を氷点下にまで冷やしていた。

 その夜悪司が目を覚ましたのは階下の物音が原因であった。
(盗人か・・・?いや、夜の番が詰めているからそれはない。)
 となれば思いつくのはただ一人。脇で眠っている女を起こさないようにベッドから出て、上着を引っかけて部屋を後にした。
 階段を下りて詰め所に来てみてぎょっとした。番をしていた者が全員眠りこけていた。
(何だ?こりゃあ・・・。)
 呆気にとられる悪司の耳に裏口を開ける音が聞こえてきた。表口を注意深く開けて、先回りする。行き先は分かっている。

「子供はとっくにお眠りの時間だぜ。」
 街灯の暗がりからのそり、と体を浮かび上がらせた悪司に殺の足が止まる。
「悪司か。生憎私はもう13歳、子供の年ではないな。」
 あの薄ら笑いを張り付かせたまま、殺は応じる。
「じゃあ、学校に忘れモンかい?」
 じりりと悪司が一歩踏み出す。確かに、殺はいつもの学生服に着替えているが・・・。鞄を持っていない。手ぶらである。
「悪司。叔母の頼みだ。止めてくれるな。」
 いつもの無表情に戻った殺が珍しく叔母の立場で発言した。対する悪司は動ぜず。
「駄目だ。いくら身内でも勝手に暴走されるわけにはいかねえんだよ。いくらさっちゃんがあいつらに対してブチ切れていたとしてもだ、仲間も集めずたった一人でなぐり込みなんて。いつものさっちゃんらしくねーぜ。だいたい上の者がそう浮き足だってどうする。加賀のとっつぁんにおこられるぜ。もっとどっしり構えてろって。」
「フ・・・確かにな。だが悪司。私はここで止まるわけには行かないのだ。」
「だーかーら、その理由はなんだよ。確かにあんたは強いよ。だけど一人でエデンへ向かおうなんてほどは強くねえ。第一さっきも言ったけどいつものあんたらしくねー。何か訳があるはずだ。聞かせてくれよ。納得のいく理由ならいくら俺だって止めはしない。後に続く戦争もきちんとやってやるよ。だが理由もなしに無茶してもらって、事態を泥沼化させるのは許さないぜ。」
「理由か・・・。」

「悪司。私がなぜ殺と名付けられたか知っているか?」
 唐突な問い。
「理由はな、生まれて一週間ぐらいの話だ。私をあやしてくれていた産婆がうっかりとな、私を床に落っことしてしまったらしい。私が床に落ち、大声で泣き喚き。次の瞬間、産婆の頭が破裂したそうだ。」
 ・・・な、
 何を言い出すのか。筋の掴めない悪司。
「その時親父殿がつけてくれた名前が『殺』だ。生まれながらにして人殺しの業を背負ってしまった人間。それが私だ。
 ・・・私の母はもともと修験者の娘だったらしく、巫女のまねごとなどもして生計を立てていた。実際母の占いはよく当たると評判だった。そう言った血が私の中で親父殿と混ざり。この力が目覚めてしまったらしい。母は私の力を『魔眼』と呼んでいた。元々の意味とはかけ離れてしまったらしいが、私がこの眼で殺意をもって見つめた物体は内部から爆発し、破裂する。物心ついた頃には何人殺めていたか分からない。
 母はそんな私に、徹底的に冷静になるよう教えてくれた。いつ、どんなときでも心を平静に保ち、自己を客観的に見つめ、激昂することの無いよう。感情を抑えることもたたき込まれた。そうして私は、おまえ達が思うようないつでも無表情で、冷静な私を作っていった。
 親父殿と悪司の存在は、そんな私が人間であることの唯一の拠り所なのだ。人を殺め、物を破壊することしかできない私を親父殿はいつも抱きしめてくれていたし、悪司は母が死んだ後も親父殿と一緒に私の居場所を作ってくれた。・・・そんな悪司をあそこまで辱める輩は。私の人間の部分がもはや許せる限度を超えた。」
 だから悪司。止めてくれるな。
 街灯の照らす影に隠れ殺の表情は見えない。
「・・・信じられぬか。そうであろうとも。」
 殺が手を挙げ、自分の顔面に向ける。
「いいや。信じるぜ。」
 殺の手が止まった。
「さっちゃんは俺の叔母さんだ。嘘を言うはずがねえ。とゆーか今この場でここまで作り込んだ嘘を言ったら、ますますインチキ臭く思われるのがオチだ。にもかかわらず語ってくれたって事は、真実ってことだ。
 なーるほどなー。さっちゃん、闘うときいつも爆弾使ってたけれどそれって自分の力を隠すためのカモフラージュだったわけだ。うんうん。しかも、赤ん坊の時にすでに人殺しだったなんてな。道理で肝が据わってるわけだ。
 と。ゆーわけでだ。そこまで能力のある奴が、人間臭い理由のためにのこのこ死地に飛び込んで行くのを納得できるほど俺は人間ができてないんでな。悪いが今の理由じゃ納得できない。力ずくでもさっちゃんを連れ戻させて貰うぜ。」
「・・・悪司ぃ・・・」
 髪の毛の影に隠れ、殺の表情は全く見えない。が。顔に手をやるところを見ると。
(・・・泣いてるのか?)
「・・・悪司・・・すまん。」
 殺の顔が上がる。見開かれた瞳の色は・・・赤金色。だいだい色の裸電球の下でも金地に映える緋色を赤々と光らせていた。非人間的な瞳に見つめられ、悪司が一瞬すくんだ。吸い込まれるような血の赤。背筋に汗が伝う。
(こ、こりゃあ・・・。)
 膝が震える。まるで、捕食者に捉えられた草食動物のような気持ち。頭に響く。
『動くな。』
(う・・・。)
 殺の口が動いたわけではない。しかし明らかに殺の声音で命令された。そして、自分の体はその瞬間から微動たりとも動かなくなってしまっている。
(な、なんじゃ・・・こりゃ。あのさっちゃんの眼の色・・・あれが魔眼ってーやつなのか?)
 眼に命令された・・・というのだろうか。
 では普段の茶色の瞳は何だったのか?その問いを見透かしたかのように殺が語る。
「母は私に心の持ち様を教えてくれた。親父殿は人間を教えてくれた。そして、親父殿からは私の魔眼を弱めるための『コンタクトレンズ』というウィミィでしかまだ手に入れられない、眼科用の視力補正器具を貰った。・・・これだ。薄く透明な膜でできていて生体と高い親和性を持っている。私の魔眼を弱めるために特別に母のまじないもかかっているそうだ。
 もっとも弱めると言っても、少し気合いを入れて見つめれば悪司も見たであろう詰め所の人達のように眠らせることや、火種が無くとも火薬を着火する位のことはできる。
 親父殿は特別なコンタクトレンズを調達してきてくれた。」
 動けないでいる悪司の目の前まで歩を進め、手に持ったコンタクトレンズを悪司の目の高さまで上げる。
「これだ。瞳の部分が茶色くなっているのが分かるだろう。細かく見ていくと、母が書いてくれた呪文だか経文だかが書かれているのが分かる。これのおかげで私は瞳の色を隠し、力を抑えていられる。私は普段これがあるから人並の生活が送れる。有り余る殺意も母の教えてくれた自己コントロールで抑えていられる。それでも無理な場合は戦闘などで小出しに潰し、親父殿から頂いたコンタクトレンズで力を抑え、どうにか今までやってこれた。」
「・・・だが。もう無理だ。」
 ぐわり、と殺の瞳が輝いたような気がした。途端体中に鳥肌が立ち、腰に力が入らなくなる。
(恐怖してる!?・・・この俺が?13歳の娘に!?)
 信じられない。
「あのシーネル長官は私が人間であることを保障してくれている悪司を徹底的に辱めた。そしてそれでも悪司がなびかないのに業を煮やしているぞ。悪司。今度シーネル長官が誘うときは予めおまえを殺すためだ。
 ああ言った我の強い女はガキと同じだ。無い物ねだりで散々だだをこね、手に入らないのが分かるやいなや対象を破壊しようとする。ヒステリックで。愚かで。どうしようもない。
 悪司がいかに組織のために耐えてくれようと、私にはそんな物は一切関係ない。私という人間性を保障する悪司をあそこまで辱めると言うことは、私自身が辱められたのよりもさらにひどい屈辱であるということだ。10年間。どうにか乗りこなしてきた『私』の手綱が今日、切れてしまったのだよ。」
 口数こそ多いが口調はゆっくりとした冷静そのものだ。まるで思わず高ぶり早口になりそうなのを精一杯自制し、言葉を口にすることで自分を抑えているような。
(・・・馬鹿野郎・・・!!これ以上・・・!!)
 しかし動かない。瞬き一つできない。殺が脇をすぎる。街灯の明かりの照らす範囲から消えていく。舞台から離れていく。足音が一旦背中で止まる。
「心配するな、悪司。」
『やるからには完全殲滅、完全征圧する。』
 その声は耳に響いたのか、頭に響いたのか・・・。駆け足の速さで小さな足音が遠ざかっていった。そして。舞台には悪司一人が取り残された。
 雨が、降り出した。



 A.M.0.00.
 衛兵は折しも降り出した雨に隠れ、最初それが人だとは気づかなかった。だが。一歩一歩ウィミィの駐屯基地エデンを囲むコンクリート塀に近づいて行くその小さな影に、ようやくわきで寝ていた同僚を起こし、ライトを向けた。
 ライトに照らし出されたのは一人の女学生で、ずぶぬれの服が張り付いてしまっている。顔に張り付いた前髪の隙間から射すような視線を感じ、とりあえず警告を発する。
「Hey! What are you doing , girl? Here's the place for Wimy Armies. Go back to your home!」
「モシモシ、ココハウィミィノシセツデス。コレイジョウチカヅイテハイケマセン。」
 とりあえず日本語と織り交ぜて警告する。少女は止まらない。不審に思った衛兵が少し声音を変えて警告する。
「Stop! Don't move from there!」
「トマレ!ソノバショカラウゴクナ!」
 なおも止まらない。ようやくライトに照らされた少女の口元が判別できる。
(・・・笑ってる・・・。)
 訳の分からない不気味さを感じ、銃を構えた上での最終通告を発しようとしたところ、同僚が止める。
「待てよ。ひょっとしたら頭がおかしくなっているのかもしれない。武器も持っていないようだし、まずは保護して様子を見よう。」
 二人はとりあえずその案を採ることにし、言い出しっぺが詰め所を出て、少女に近づいていった。
 間近で見ると自分の胸の高さぐらいまでしか背がない。ずぶぬれの服からだらりと伸びた腕。うつむいたままの顔。
(こりゃあ、本当に頭のおかしくなった娘かもしれない。)
 その兵士は少女・・・殺の肩に手を置き、下から覗き込んで尋ねた。
「キミ、ナマエハ?ドコカラキマシタカ?」
 気づくと、少女はくつくつと肩を振るわせている。ライトに照らされた口元がきゅうとつり上がり、前髪の隙間から覗く瞳が兵士の目を貫いた。流ちょうなウィミィ語で・・・。
「Death is my name.Who brings to you the Agony with endless pain... from the Hell.」
 兵士の体が破裂した。

「!」
 様子を見ていた同僚が即座に銃を構え、少女に狙いを付ける。スコープで少女の頭に狙いを付ける。少女の瞳がゆっくりとこちらを向く。引き金に指を
 指をかける前に殺の瞳がスコープを貫き、詰め所もろとも爆発した。
 目の前に転がるウィミィ兵士の死体から吹き出る血液に体を朱に染め、警報鳴り響き兵士の駆けるエデンに、今。少女の形をした殺戮の悪魔が降臨したのであった。

「そっちに行ったぞ!」
「煙で見えねえ・・・。」
「うわあ」
 殺は小柄な体を生かし、わざと煙の多く出るような爆発を重ねうまく身を隠す。まずは通信施設の破壊。アンテナを備えた建物の一階に侵入する。扉の鍵を破壊し、静かにあける。廊下に並ぶ電球を見つめ、順に破壊していく。兵士達の怒号が一斉に廊下に沸き起こった。既に暗闇に慣れている殺はその間をすり抜けていき、先ほど頭に入れて置いた地図を元に通信室に辿り着く。衛兵を破裂させ、部屋に入る。
(・・・後々のため、機材は残しておくか。)
 万一別の駐屯基地から通信が入った場合、応答しなければ不審に思われるだろう。
(となれば・・・!!)
 通信室の異常に気づいた者達が廊下を迫る音が聞こえてきた。殺はゆっくりと部屋を出る。
 急ぐ兵士達は扉の10メートル手前で立ちすくんだ。闇に浮かび上がる二つの赤い瞳。
『動くな』
 頭に響く声で一切の体の自由を奪われる。
『おまえ達は私の僕だ。こうなりたくなければ私の言うことを実行しろ。』
 ぎゃん、と兵士の一人がうずくまる。そちらを向いた兵士の一人は、次の瞬間には自分の両手が破裂して無くなっていることに気づく。
「ひ、ひい」
 悲鳴を口に出した兵士は次の瞬間には頬と、唇が千切れ飛んでいた。
『私の言うことを聞け、そして実行せよ。』

「通信施設はもう捨てろ!脱出通路を確保するんだ。何?反乱!!??仲間割れだと、どういうことだ!!」
 長官室でシーネルが喚く。長官室が収まっている建物の一階では、殺がパワードスーツの兵士達を瞬殺し続けていた。
「邪魔だ・・・。」
 突進してくるしか脳のない筋肉馬鹿ども。タイヤに飛び乗り、背面に回り込む。ガソリンタンクを見つけ、退避した後発火。柔よく剛を制す。魔眼で操った兵士達を共倒れさせていく。二階でプリシラに出会ったが。
「邪魔。」
 何か言いたげだったプリシラが頭をザクロ状に床にぶちまけ、よたよたと二、三歩歩き。どちゃりと倒れた。
 向かってくるアーマースーツ。
『盾になれ。』
 兵士達数人を肉の壁にして、一体一体始末していく。
 何人の血を浴びたのか知らない。ふと、廊下に立てかけてある鏡を見ると口元に相変わらず笑いを浮かべ、体中。髪の毛の先から爪の先までを赤い血でぐしょ濡れになった少女が自分を見つめていた。
「あは」
「あはははは」
 あはははははははははあああ。
 盾になっていた兵士達もろとも一斉に破裂させる。壁面という壁面、床という床を爆発させ、建物を轟音で揺るがした。炎の中を緋色に染まった少女が進む。三階。長官室とプレートの下がった部屋から、火が起こっているのにまだ避難もせずわめき散らしている声が聞こえてくる。扉を破裂させた。

「ひいっ・・・。」
『動かないで。』
「手元が狂うからね。」
 口元にこの上なく優しげな笑みをたたえ、膝枕の上で硬直しているシーネル長官の耳たぶを果物包丁でそぎ落としていく。
「ぎゃ、あぎゃ、ぎひ」
「だめよ、これくらいでそんな悲鳴を上げたら。」
 くつくつくつ・・・笑いながら鼻をそぎ落としていく。
「くす。軟骨が固い。」
 唇を切り落とし、口に含む。・・・おいしい。と呟いた。
 シーネルの顔の上に、殺の前髪からしたたり落ちた誰の物とも分からぬ血液がぽたぽた垂れる。
 つつうと額に切り込みを入れ、するりと耳たぶの後ろへ回し。首の後ろまでぐるりと回し、もとの額に戻って赤い切り込みをつなげる。間に指を挟み込み。べりべりと頭皮をはがす。
「ぎゃあ!!あああああああ、あが、ぎひひひああああああ!!!!!!」
 赤く染まった頭蓋骨が中途半端にシーネルの頭から除いている。ばたつく腕を破裂させ、元々両手を破裂させていたのが更に短くなり二の腕だけになった。足は端から、すでにない。


 数時間。ようやく手勢を引き連れてエデンに到着した悪司達を待っていたのは煙と火と、雨に包まれた駐屯基地。炎の中からもはや人体標本にしか見えなくなったシーネルを引きずる殺が浮かび上がってきた。
「う・・・。」
 血まみれになった殺が無表情に、ざりざりと人間の形を捨てたシーネルを引っ張ってくる。悪司の後ろに並ぶ部下達からあまりの凄惨さにつばを飲み込む音が次々と聞こえてくる。
「・・・悪司。」
 どさりとシーネルを転がす。それはもう、女の形をとどめていなかった。耳、鼻、唇をそぎ落とされ、頭皮を剥がされ頭蓋骨がむき出しになっていた。四肢は破裂しており存在していない。火傷状に爆発したらしく、血は流れていない。さらに両乳房は内側から暴発したように、皮膚が千切れたままだらりと垂れ下がり白い脂肪を震わせている。さらに恐ろしいのはこれだけの傷と苦痛を負っても恐らく殺の魔眼のせいであろう、未だに精神が正気を保っていると言うことである。
 ひい、とざわめく部下達が一歩引く。それを一瞥した殺はフ、といつものニヒルな笑みを浮かべ。
「お別れだ、悪司。・・・迷惑をかけた。」
 コンタクトレンズをはめ直しいつもの瞳に戻った殺。
「この女は好きに使ってくれ。見ての通りエデンは通信設備を残して完全殲滅、完全征圧した。その女はもう、悪司達に刃向かうことはない。」
 さらばだ。
 そう言って背を向けた殺の肩を悪司の手が掴む。ぐるりとこちらを向かせて、悪司の平手打ちが殺の頬を襲った。
「・・・若。」
「あーくん。」
 吹っ飛んだ殺に向かって歩み寄り、襟首を掴み挙げて迫る。
「この馬鹿が、先走りやがって。ええっ!?さっちゃん、おまえは言ってたよな。俺のところに居ることが自分の人間性を保障するって。それを、てめえからぶちこわしやがって。部下どもに勝手に恐怖心だけ植え付けて、それではいさようならってか。てめえ勝手なところはガキそのまんま。
 ウィミィにブチ切れてたのは他の連中も一緒なんだよ。それを自分一人だけ力があるからって感情に呑まれやがって。」
 どさりと掴んでいた手を離され、殺はへなりと地べたにへたりこんだ。
「ったく。おまえ一人じゃないんだから、よ。」
 悪司はそのまましゃがみ込み、血に濡れそぼった殺の頭をしわくちゃに撫で回す。
 ・・・う。
「う、ううううう。」
 人間で居ていいんだ。泣けよ。悪司が耳元で囁く。
「うああああああっっっっ、う、え、ひぐっあああああーー、ああああー」
 赤ん坊のように泣きじゃくる殺を抱き上げて、部下達に号令する。
「・・・よっしゃ。ウィミィ基地はさっちゃんのおかげで現時点を持って完全征圧!消火班を残して一旦解散だ!」
 俺達の勝ちだ。
 悪司が空いている腕で勝ち鬨を上げる。徐々に。徐々に部下達もめいめいときの声を挙げた後その場を離れていった。

「あーくん。」
 残っていた夕子が駆け寄る。
「泣き疲れて眠ってるよ。全く見かけほど大人じゃなかったんだな、この小さな叔母さんは。」
 帰ったら風呂に入れてやってくれ。
 夕子が殺を抱きかかえ、頷いた。
「今のはなかなか見事じゃったぞ、悪司。」
 唐突に暗がりの中から声がかけられる。二人が驚いてその方向に見やるといつの間にか居たのか。山本一発が姿を現した。
「じーさん・・・驚かすなよ、趣味がわりーな。」
 ふふん、と笑い。
「やはりこの娘をおまえに預けて正解だったようじゃな。全く不憫な子じゃ、理性だけで感情を抑えてばかりいるといつか人間にヒビが入る。ウィミィ達が良い例じゃ。素直な欲求を認めていればあそこまで硬直した国家にはならなかったものを。」
「じーさんの血も因果なモンだな。」
 全くよ、と眼を細めて夕子に抱かれて眠っている殺の頭を撫でる。
「悪司。これからもこの子を頼んだぞ。この子が人間でいるための戦いはこれからが本番なんじゃからな。」
「わかってる。部下の間に広がった恐怖心をどう和らげるか、今から頭がいてーぜ。」
 それも試練じゃ。
 かっかと笑いながら一発は去っていった。
「さ・・・夕子さん帰ろう。さっちゃんの家にさ。」
 うん、と頷く夕子。
 雨のあがった雲の切れ間を朝日がぼんやりと照らし出した。




Dedicated For SATSU TAKEGA.

2002/07/17 風晶


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後書き或いは感想

 くうー、岳画殺いかすー!!!かっこえー!
 なんつーか、こういったニヒルな大人少女系は不滅ですな!!
 もう、エロは無し!!ひたすら大人びてはいるが、でも心のどこかで泣いている、そんなキャラクターには普遍的に父性愛を覚えてしまいますですよ!!
 ミレニアもそんな感じですよ。くはーっ。

 味わって読んでいただけたら、それにまさるもの無し。
 エロゲー?いや、エロシーン無くても問題無いっすよ。もう、登場人物の心理描写が丁寧で、しかもバカゲーで、ゲーム自体のおもしろさもしっかり作り込まれていればエロシーンは要りまっせん。くうっ。
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