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アトラクナクア(アナザー・エンディング)

初版作成:2001/10/31

目次

  1. 前書き
  2. 本編
  3. 後書き或いは感想

前書き

 この二次創作の原作は、アリスソフトより発売されている18禁エロゲー「アトラクナクア」です。
 原作のエンディングとは別のエンディングを考えました。一部ネタばれもあり得ますので現在プレイ中、或いは現在したことが無いが将来プレイするかもしれない方、などは読まない方がいいと思われます。
 それでも良い方や、原作に全く興味関心がないがそれでも読んでみたい方などはどうぞ。
 ちなみに、この二次創作にはエロシーンは一切含まれていませんのであしからず。
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本編

 登場人物紹介
・初音:蜘蛛のお化け。白銀との戦いで傷ついた体を治すため、とある高校に潜り込んでおいしそうな生徒を物色、罠にはめて喰らう。黒髪、ストレートセミロングの黒セーラー冬服。
・かなこ:輪姦されていたところを偶然初音に助けられる。以来、初音を「姉様」と慕い、夜も含めて親密な関係になる。軽度の男性恐怖症。気が弱い。
・白銀(しろがね):蜘蛛のお化けの親玉、蜘蛛神。修験者の年若い男性の格好をしている。銀髪、銀目。二百年前、まだ少女だった初音に蜘蛛神としての生を与え、戯れにデスゲームを続ける。不老不死は性格を歪める、という仮説を一部証明している。

 これまでのあらすじ
 宿敵白銀との戦いで傷ついた体を治すため、とある高校に潜り込んだ初音。その初日、輪姦されていたかなこという女性とを成り行きで助けることに。かなこは初音のことを口外しないと誓い、初音を姉様と呼び慕い始める。ブレザーとも違う独特の制服。
 サチホやつぐみなどおいしそうな生徒を一人一人罠にはめ、喰らっていく初音。一方の白銀も着実に回復しつつあった。
 やがて、神社の娘を操った白銀が初音に戦いを仕掛ける。完治していない初音は苦戦を余儀なくされ、ついに雨の降りしきる学校の屋上で白銀と直接対決する。神社の娘との戦いで只でさえ傷ついている初音は一歩一歩追い込まれるが、そこにかなこが駆けつける。


「姉様、いゃああ!姉様、姉様、しっかりなさって下さい。」
 うわごとのように姉様と繰り返すかなこを見て、初音はなんだかかひどく疲れてきた。おろおろしながら、しかしきつく己の体を抱きしめるかなこの体温がなぜか懐かしい。
「・・・変われば変わるものよ、初音。」
 紗濫、と錫杖を鳴らし、かなこを挟んで再び白銀と対峙する。
「まさか、少女に己のことを『姉様』と呼ばせておったとはな。懐かしいなあ、初音。」
 初音を射抜く白銀の目は、過去の二人をその瞼に映していた。
 永遠の生を生きてきた蜘蛛神と、蜘蛛神が戯れに自分と同じ生を与えた少女。
「何とでも呼ぶがいいわ。・・・かなこ、どきなさい。もう、あなたは人間の世界に戻らなくては。化け物には化け物としての世界と、終わりがあるのよ。」
 頭を振りかぶり嫌々をするかなこをの肩をそっと掴み、引き離す。ふるふる震えるかなこを脇へ除け、よろよろと立ち上がった。

 姉様の言うことだから。姉様がああいったのだから。しかし、それでもかなこは感じてしまった。自分を優しく引き離す初音の手こそが、命の流出にぶるぶると震えていたことを。
 白銀が錫杖を構える。対する初音はーーーもう、何の備えも取っていない。ただ、目をつぶっている。
「・・・白銀、一つだけ約束して。」
 初音が呟く。
「この娘だけは、絶対に手を出さないで。全てが終わったら、記憶を消して人間の世界に戻してあげて。それがー初音からの最後の願いです・・・『兄様』。」
 一瞬の驚きの表情。後、白銀が答えた。
「・・・承知。初音、・・・まいるぞ。」
 白銀の脚が地を蹴った。
 錫杖の切っ先はまっすぐ初音の心臓をめがけて空を走る。
 そして
 衝撃。
(・・・やっと・・・終われる・・・・・・。)

「・・・な・・・」
 衝撃の後、覚悟していた激痛がなかなか来ない。代わりに白銀の驚愕の声に疑問を感じ、目を開けた。
「かなこ!!!」

「・・・姉・・・・・・さま・・・。」
 初音を突き飛ばしたかなこの胸に錫杖が突き刺さり、先端が制服を破って背中から突き出ていた。かなこの手はしっかりと錫杖を握りしめ、引き抜こうとする白銀の力に対抗し自らの体を縫い止め続けている。
「姉様・・・すぐに・・・喰らって・・・・・・下さい・・・私のか・・・らだを・・・・・・。」
「・・・くっ!」
 蜘蛛神の力を持ってしても引き抜けない錫杖をうち捨て、白銀が飛びずさる。
「かなこ!!!!!!」
 崩れ落ちるかなこに初音が走り寄る。抱き留めた初音の腕は、刻一刻と冷たくなっていくかなこの体温を感じた。
「・・・なぜ!?おうちに帰りなさいと、あれほどつよく言ったはずなのに・・・!私の言うことが・・・きけない・・・の」
 初音の語尾は、かなこの手のひらが口を押さえたために宙にかき消えた。
「はやく・・・食べないと、ほら・・・私死んじゃいますよ・・・?生きているうちがおいしいって、いつか・・・いったじゃないですか」
 そんなことを言っているのでは、と言おうとしたが言葉が口から出てこない。
「ほら・・・私の血・・・」
 かなこが口から流れ出る血を指に付け、初音の口元に持っていき、半開きになっている初音の口中に入れていく。
(・・・ああ・・・。)
 感じる。かなこのおもいが。たった一滴にも満たない血なのに。そして、消えていくかなこの生気が。
 なぜだ。なぜ初音はかなこを食べられない。やろうと思えばいつでもできたはずなのに。『姉様』

「・・・無理よ・・・」
「むりよ、かなこ。ほら・・・私の体が見える?白銀との戦いでこんなにぼろぼろになってしまった。今更あなた一人喰らったところで・・・どうにもなりは、しないのよ。」
 初音はかなこの胸に耳を押しあてる。心臓の鼓動がひどくゆっくりだ。
「・・・姉様、泣いてるの・・・?」
「え?」
 かなこの呟きにおどろいて初音は顔を上げる。
「姉様のお顔を流れる雨・・・暖かい・・・。」
 はっとして顔に手をやる。(そんな・・・)蜘蛛になってより二百年。一度も触れたことのないものが顔を伝う。
「!!かなこ?かなこ、かなこ!!!!!」
 振り返るとがっくりとうなだれたかなこの首があった。
 揺すれども、揺すれども・・・起きあがってこない。
 生気が感じ取れなくなっていた。
「魅せてくれたではないか。」

 いつの間にか脇に立っていた白銀がずぶりとかなこの体から錫杖を抜き取り、ちょうど覆い被さるようになっていた初音を冷たくなったかなこと一緒に突き通した。
「まさかおまえが涙を流したとはな。・・・つまらん。」
 興の冷めた声を宙に浮かべ、動かなくなった二つの体を白銀は後にした。
 天井から降る銀糸に白銀の体が隠されていく。

(・・・かなこ・・・あなたの生まれを教えてくれない?・・・)
(え?姉様・・・何で突然?・・・)
(気が向いたからよ。さ、お言い・・・)
(えと・・・大昔に、別の土地からやってきた異邦人だったそうです。)
(別の土地から?大昔に・・・)
(はい。今でこそこの土地に根付いて小さな会社をやっていますが、元々は遠い国からそれも奥深い山の中からやってきたそうなんです。)
(・・・おもしろそうね。もっと聞かせて・・・)
(はい!姉様がお喜びなら!!あ、それでですね、私の『深山』っていう姓はそこから来たものだそうです。この土地に来た当初は、昔のことですから仲間外れにされたりして・・・。深い山から来たから、深山だってあだなされたそうなんです。本当かどうか分かりませんが・・・。え?この話ですか?私が子供の頃、今では亡くなってしまったおじいちゃんが聞かせてくれたんです。父も聞かされたそうです・・・。とにかくそれで、あだ名がそのまま姓になってしまったんだそうです。五百年以上も昔の、それこそお伽噺のようなものですけど。)
(随分と・・・由緒ある家なのね。私よりも昔からあるなんて。)
(え!?あ、そ、そうですね。・・・すみません・・・。)
(何を謝っているの。別に咎めたりはしてないわ・・・。さ、それで?そうね・・・。それ以前は何という姓だったの?)
(は、はい・・・えっと・・・『八雲』という姓だったそうです・・・。あれ?この土地の地名(八重)となんか似てますね。姓を変えた理由もひょっとしてそれだったりして・・・。)
(ふふ、そうかもしれないわね。昔の人は結束が堅かったから。よそ者に自分達の土地とよく似た名前を名乗らせるのに、抵抗があったのかもね。)
(そ、そうですね。)
(さ、おもしろい話を聞かせて貰ったし。もう・・・おやすみ?かなこ・・・)
(はい、姉様。おやすみなさい・・・)

古の人曰く。
土地に蜘蛛あり。
空に雲あり。
言霊によりて神なれり。
歌に八雲。すなわち八蜘蛛。
古に蜘蛛の神八柱なりて、各々地に潜れり。
空に八雲。地に八蜘蛛。
言霊によりて、八蜘蛛の長、亦の名を八雲と言わしめる。
年月経て、長の家長ずれども亦落ち、人と交わる。
残りの七柱の神々、或いは地に潜り或いは空に消え、或いは人を喰らう祟り神となりし。
長の家、人との交わりを戒め、永く山中に住まう。
住処は漠として、知る者は無し。


どくん

 屋上から糸を貼り、地に降りようとする刹那。
(・・・空耳か?)

どくん

 白銀はゆっくりと体の向きを翻した。

どくん

 空耳ではない。
 ・・・確かに、消滅を見届けたわけではない。が。(あの傷ではまず死ぬより他無いはず。)しかし。何だ?この気配は。初音・・・の様でいて、そうではない。微妙に何か、混じっている。
(な!?)
 かなこが眼をあけた。

 膝ががくがくと震え、十分粘度がありちょっとバランスを崩しただけでは落ちるはずのない糸の上から今にも崩れ落ちそうだ。
(あの・・・娘の瞳の色!)黒。だが、ただの黒ではない。闇なのだ。全ての色を吸い込み、見る者を釘付けにする。たとえ、それが化け物であっても。闇は色がない。光がない領域が、闇なのだ。故に。闇は全ての色を含む可能性を持ちながら、全ての色を拒絶している。それ故に。ひとは。ばけものは。闇に色がない故に、闇を恐れ、闇に惹かれる。
 太古の昔。白銀を唯一絶対の恐怖の元に置き、他の六柱の蜘蛛神も絶対の服従を誓った蜘蛛神の長。その一族のみがあの瞳を持つ。
(八雲・・・八雲神)
 恐らく何千年かぶりに「本能的な恐怖」を白銀は感じた。
 通常の蜘蛛は物理的な巣を張り、獲物を捕らえる。蜘蛛神も精気が必要なときは自力で網をこさえ、罠にかける。だが、蜘蛛神の長、八雲神だけは物理的な巣を張らない。八雲は言葉で人を罠にかける。惑わす。網を張る。そうして、言葉で心という最大の獲物を捕らえ、最後に物理的にも完全に喰らう。八雲神は言霊を使えるのだ。
 まざまざと思い出す、原初の八雲神のあの瞳を。
(だが、それ故に・・・姿を隠したはず。いや、まさか。子孫か!?)
 八雲神は自らの力を恐れ人と交わり、力を薄めていった。蜘蛛としての血も薄まりもはやちょっとした予知能力以外は全く人と変わらなくなったと聞く。(それがあの娘の一族だというのか・・・ひっ)
 ぐり、とかなこの首がまわり白銀と視線があった。
(ああ・・・)全てが吸い込まれていく。が、すんでの所で視線が外れた。
「・・・姉・・・様?・・・」
 体を起こしたかなこは自分に覆い被さっている初音に気づく。
「姉様・・・姉様、いやですよ、私ちゃんと生きてますって・・・、私が生きているのですから、姉様だって生きております・・・。ほら、起きて下さいまし・・・姉様・・・。そんな、姉様・・・・・・」
 (無理だ。あの娘の心音は聞こえるが)初音の心音は、もう完全に聞こえ・・・
「嘘よ、姉様あぁあ!私が生きているのだから、姉様だって生きております!!!!!」 うわぁぁあん、と空間が震えた。

 (ひ・・・あの娘)言霊を使った。初音の心音が再び、聞こえ始めた。
「ああ、姉様・・・」
 かなこの表情に光が射した。初音が目を開く。
「ぎゃあああっ」
 白銀は悲鳴をあげた。初音の瞳も、闇だった。
「・・・かな・・・こ?・・・」
 そう言って身を起こした初音はしばらくの間かなこの眼を見つめ、
「・・・かなこ、しばらくここでじっとしていて。私はほらこのとおり、大丈夫だから。・・・あいつと決着をつけるから。」
 涙を流しながら、しかし嬉々としてかなこはぶんぶん頷いた。
 ゆっくりと。
 スロオモオションの銀幕のやうに。
 虚ろな表情の初音が。
 白銀に今、再び対峙した。
「かなこの血が・・・全て教えてくれたわ。」
「ああ・・・・・・」(八雲神だ。あの瞳、あの気は。)身震いしている自分に更に恐怖を感じる。
「白銀。あなたは人間です。糸もはけないただの人間。記憶も無くし、自分が何者すらも分からない哀れな人間です。昔お世話になったせめてもの恩返し。・・・もう一度言います。あなたは人間です。」
 うわああぁぁぁあああああんんんん・・・・・・



「姉様・・・」
 雲が晴れ、雨も止んだ。東の空が明るみ始め、屋上にも光が射し始めた。かなこはかつて白銀と呼ばれた男の体に目を向け、初音を呼んだ。
「大丈夫。何も覚えていないわ。もう、ただの人間よ・・・。このままにしておきましょう。」
 しゅうるしゅうると朝日にきらめく糸を紡ぎ、服を身にまとっていく。
「綺麗・・・。」
 呟くかなこに初音が答える。
「あなたにも、もうできるわよ。みなさい。服がぼろぼろじゃないの。」
「え?本当ですか、姉様。」
「ええ・・・そうね。袖の間から糸が流れ落ちるように、腕を振ってみなさい。」
 かなこはふわりと腕を宙に舞わせた。
「わああ・・・」
 きらめく糸が宙に舞う。
「ふふ。なおしたい部分、着たい服を頭に浮かべてご覧なさい。」
「すごい・・・。姉様、私も蜘蛛になれたんですか?」
 瞬く間に服を修復する己の糸に驚きの声を挙げる加奈子。
「蜘蛛ではないわ。蜘蛛神よ。・・・おいおい話してあげる。ゆっくりとね。それと、もう私と対等になったのだから『姉様』は止して。『初音』でいいわ。」
 屋上の扉へと足を向ける初音。何を言われたのか理解しきれず、ぽかんと立ちつくすかなこ。
「なにやってるの、かなこ。『外』へ行くんでしょう?沖縄でしたっけ・・・。一緒に行くんじゃないの?」
 はっとするかなこ。急いで初音の後を追う。
「待って下さい、姉様。」
「もう、『姉様』は止して、って言ったでしょう?」
「ごめんなさい、姉様・・・あっ。」
「あはは・・・」


 これより後、二人の姿を見た者は居ない。少なくとも、見た記憶がある者は居ない。
 贄とされたサチホ、タカヒロ、つぐみ、葛城達も全ての記憶を初音と出会う前まで戻され、体の痕跡も消されていた。
 深山かなこは行方不明のまま、人々の記憶から消えていった。

そして・・・



(しまった。換気口に子蜘蛛を忍ばせていたのか。)
 まだまだ自分も若い、とかなこは舌を噛んだ。
(初音の方が二百年多く生きている分、一枚上手だ。)
 脚を使ってビル壁を駈けのぼった。ビルとビルとの通信アンテナの間に糸を貼り、その上に立つ。初音は既に空中戦の準備を整えていた。
「かなこ・・・さあ。死合(しあい)を始めましょうか。」
「ええ。・・・初音。」

(The Death Game Continues... to the future)



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後書き或いは感想

 アトラクナクアが始めてプレイしたエロゲーになります。まあ、そもそもゲーム自体あまりしないのですが。
 結局レズものでもあるのですが・・・お化けも大変ですね。
 勝手に設定を作ってしまった部分もあります。許して。
 なんだかんだで、結構青臭いな。
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